真夜中とスープ
仕方ないから、スープでもつくることにした。
ねぎならたぶん小口切りにしたストックが冷蔵庫にあるはず。あ、ほら、わかめもあった。どのくらいもどそうか。スープの素は、切れているから醤油ベースにしよう。うーん、鍋乾いてたっけ?まぁいいか。
外は音が部屋に満ちるほどの大雨だ。6月らしいっちゃらしいけど、まだ梅雨には入っていないらしい。別に雨は嫌いじゃないけど、やっぱり続くとなると洗濯物は乾かないし、部屋干しだと匂いが気になるし、なんだかんだでテンションは下がるから好きじゃない。季節に文句を言ったって仕方ないけど。
「あぁ、もう」
携帯のディスプレイを一瞥して、キッチンのテーブルに置く。どうも収まりきらない気持ちをなだめるように、鍋に火をかける。お湯がわく間に具材でも切ろう。よし。そういえばまいたけが余ってたし、スープに入れてもいいんじゃないだろうか。腐らせてもあれだし。
一人暮らしにも年季が入ってきて、料理にもかなり慣れが入ってきたと思う。彼だっておいしそうに食べてくれる。あのへにゃっとしたような、かっこよくない顔になった時は信じていい証拠だ。彼女なんだしそのくらいわかる。
あ、いや、でもそうであってほしいだけかも。よくわかんないとこもいっぱいある。ふわっとしているんだけど、今どきのいわゆる草食系っていうのとも違って、女の子とも普通に話せて、それなりに人気。でも女の子は嫌いだって。でも私は特別だよ、ってぽんぽんと頭をなでる。俺がこんなに好きになるのも、めずらしいって。
でもそんな言葉を心に秘めて、毎日思い出すほど私も子どもじゃないし、ありがとうと軽く返しただけだった。彼は気まぐれな性格だし、そんな言葉誰だって使うし、第一私が特別な女じゃないのは自分が一番わかっている。化粧がうまいわけでもなく、男の人好みの服を着るわけでもなく、性格だって捻くれているトコもあるはずだ。至って何処にでもいるような女だ。自分がダメだとは思っていないまでも、だからといってアピールポイントがあるわけじゃなくて、なんだかうまく切り出せない女。特別じゃないと理解しているからこそ、行動のできない女。
自嘲しすぎかしら、と一人笑いながら具材を鍋の中に入れる。といっても、マイタケとわかめぐらいだ。あともう少し煮立たせて、そしてらごま油やら醤油とかで適当に味をつければできあがり。料理といえる代物じゃないけど、この時間帯だし、あまりがっつり食べるわけにもいかない。
「意外に食べるのねぇ、君」
小柄で運動もしないあたしを見て、彼はよくそう言う。確かに全くもってその通りだけど、お茶碗の代わりにラーメンどんぶりを使ってる人には言われたくない。自分だって会社と家の往復なくせに。まぁ他愛の無い話なので拗ねたふりをしてかわしたけど、私だって一応女だ。しょっちゅう言われたら気にもするんだ。鈍感。どんかん、どんかん。
小皿に少しだけ汁をすくって味見。うん、まぁ悪くない。スープカップにたっぷりそそいでテーブルに戻る。何も流れないディスプレイ。メールを送ったのは、もう一時間前ぐらいだと思う。この時間帯は仕事なワケないし、でも普段なら録画しておいたドラマを見ている時間なのに。返信が来るはずなのに。
「いただきます」
うん、ごま油をいれたのは正解だった。調味料はすごい。何を入れるかで味がだいぶ左右される。おかげさまで狭いキッチンに調味料だけは色々と並んでいて、リクエストされた料理はたいてい家のものでつくれるのだった。具材さえあれば。
雨はいっそう強く降り、部屋の温度さえも蝕んでいく。フローリングの欠点はこれだ。夏は気持ちいいけど、その前の雨季はつらい。そういえばスリッパを履き忘れていた。今日は帰ってくる頃にはへとへとで、スリッパを履かずに倒れこむように家に入ったんだった。
そんな時、ポルノグラフィティの『リンク』が流れ出す。携帯のディスプレイ。流れるセルリアンの文字。
「やぁこんばんは、君」
一発で雨の音を打ち消すその声は、恨めしいと感じる暇さえ与えなかった。
なんて平凡な行動をする私。あぁ。
六月の雨に流されないように強い言葉で抱きしめてほしい
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